な、なるほど…。

何ですか、変な目で見ないでください。

人魚姫を気取る女盗賊たちが指定したお楽しみの場所、グウェーデン・ファームなる農家はアンヴィル郊外にひっそりと建っていました。宿屋で約束したときにはすでに夜の9時を過ぎていたので、11時の約束を果たそうと思えば結構余裕がありません。こういうところも彼女たちの作戦かもしれません。時間的余裕がないと、誰しも冷静な判断を欠いてしまうものです。
さて、彼女らが私の申し出に従ってくれれば話は早いのですが・・・。
「来てくれて嬉しいわ」
小屋の中はムーディに灯りが落とされており、妖しげな暖色の光が揺れる小屋の中で私を出迎えたのはインペリアルの方、ファウスティナ(Faustina)と名乗った女性でした。
「シグニーもじきに来るわ。でも、その前にできることがあると思うけど」
「ええ、仰るとおりです」
「服はそこのテーブルに置いてくれるといいわ。
窮屈な格好はやめて寛ぎましょうよ」
キャプテンならこんなとき、「ではこんな窮屈な格好でいる必要も無い」とか仰いますか?それどころではないのです。
「いえ」
「・・・着たままがお望み?」
何かアルゴニアンの扱いは随分アレです。帝都でもアルゴニアンの方はいらっしゃいましたが、どちらかというと紳士だったと思うのですが。
「どうしたの?アルゴニアンにもシャイな人はいるということかしら。
考えを改めなきゃね。さあ、恥ずかしがらずに」
「衣服を脱ぐ必要はありません。
ある方から奪った指輪をお返しください。私の用はそれだけです」
木乃伊取りが何とやらをさせるため、もう少し絡め手を続けるかとも思っていましたが、彼女は引き際の判断を間違えるタイプではなかったようです。私の言葉を受けてすぐに声を荒げます。
「知ってるんだよ、このクソッタレのヤリトカゲ!
あんた衛兵に雇われて来たんだろ?!」
これは一本取られました。が、ちょっと待ってください。
「私は貴女に騙されたバカ男に頼まれて来ただけですが」
「たった一人を囮に使うなんて有り得ないとも思ったけどね。
実際あんたはここにいる。指輪なんて話はでっち上げさ。
本気で云っているのならあんたも担がれたって訳だ」
「指輪が無い?それが本当なら此処に来た意味はありません」
しかし、此処で盗賊の言葉をまっすぐに信じるのも愚かです。

「野郎共!殺っちまいな!」
「ちょっとお待ちを」
物陰から、シグニー嬢ともう一人、カジートの女性が現れます。そしてファウスティナ殿はエンチャントされているらしい短剣を取り出します。
「口を閉じな、ヤリトカゲ。信じる気は無いって顔だよ」
「槍を磨かせる代わりに槍の錆にするって洒落のつもりかい?!」
ですから、そのフレーズは意味が分からないです。それと貴女方まで私をヤリトカゲ呼ばわりですか。せめて槍は漢字に・・・私は槍を構えてしばらく防御に徹しましたが、ファウスティナ殿の武器はそれを許すものではありませんでした。魔力の源にダメージを受け、少々の立ち眩みをおぼえます。
「格言に従う。あんたは危険だ」
「よくわかりませんが、覚悟の程は尋ねるまでも無いようですね」
その覚悟のできている者同士であれば、戦いはシンプルな命の奪い合いです。それは種族がどうという話ではなく、普通にコミュニケーションを取る事が出来る相手で無くても平等になれる真実です。
誰にも話したことはないですが、私はこういう場であればこそ、人間も、ゲッコ族も見た目などの違いを一切取り払うことができる一定の法則の下に真実に届くと考えます。勿論、一面的で悲しい事実でしかないことは確かです。敗れた者は死ぬ。それだけのことです。彼女らは覚悟して私の排除を試みました。私は全力でそれに応えましょう。
その気になれば、武器が強力であっただけで、碌な防具も身につけていない彼女らは完全武装した私の敵には成り得ませんでした。此処に来るまでの様々な戦いで、この世界での私もかなり鍛えられています。
戦いが終わり、今後の方針を考え始めた矢先、セイレーンたちの言葉を裏付けるように、依頼者たちが現れました。その正体である衛兵の姿で。

「驚かせたかしら」
「なるほど、真実を語ったのはセイレーンの方でしたか」
「ゴーガンと私は、この町の衛兵。このひと月、ファウスティナ一味の
尻尾を掴もうとしていたわ。でも、街の男たちは証言に応じなかった」
既婚者ばかりがターゲットにされ、そのおかげで捜査は全く不発に終わるところだった。この事態を打破するためには、地元の人間ではなく、旅人に頼るしかなかったのだ、とマエローナ殿は言います。なるほど、あのオバチャン口調は演技ですか。今の彼女の口調はは任務に忠実な公僕のそれです。いやしかしそれにしても担がれたものです。私は丁度良いところに現れて、しかもおめでたい事には、物陰から飛び出して現行犯処分をしようとした彼女らの代わりに盗賊を退治してしまったということです。
「貴方にこうする他無かったことは我々が見ていたわ。気にしなくて結構よ」
はぁ。そんな言葉の前に仰るべきことはないのですか?
「とにかく有難う。街で見かけたらいつでも声をかけてくれれば力になるわ。
それと、これからも私たちの正体を黙っていてくれると助かるのだけど」
「承りましょう」
聞き様なのですが、今女3人切り倒したのを黙っていてあげるから、私たちのことは秘密にしてくれ、と取ることも出来ますね。そう思えるくらい彼女の口調は事務的でした。というより、謝罪の一言がないうえ、あなたも叩けばホコリの出る「冒険者」でしょうとでも言いたげです。
「・・・悪かったな」
口調が違うといえば彼、ゴーガン殿の方もそうです。言葉こそ軽めながら、今の彼は美女に鼻の下を長く伸ばすタイプには見えません。
「あんたは多分、指輪を取り戻すことだけを考えていた筈だ。
実際、訴えが無いんだから彼女らをどうにかする必要も無かった」
「・・・」
「ゴーガン!」
美女が減るのは帝国の損失だということをお偉いご領主様は分かっていないと云って彼は笑いましたが、その目は笑っていません。
「今更信じてくれとは云わないが、あんたを囮に使うのは反対だった。
いや、こっちの都合でな。俗説を鵜呑みにしているわけじゃないが、
こういう事件の囮がアルゴニアンというのは・・・いや、気にしないでくれ」
はっきりと物を言うタイプのようですが、そのはっきりしたところが私には分かりません。気にするなと云われても。
「アルゴニアンが好き者、なんて云うのはただの俗説さ。
というより、毒にも病気にも強いあんた達の生命力の高さを、そうして
あっちの方がどうだと笑いにでもしなければ誰も戦えなかった。
まあスィロディールで何とか皆仲良くやってる今は今更だがな。」
なるほど、勉強になります。この世界のトカゲ人種は、ゲッコ族とは違い、迫害されそれに抗った歴史があるようです。
「一方でそれは一癖ある連中には格言になった。
色事に動じないアルゴニアンほど危険なヤツはいない、とね」
なるほど。初めてお会いしたときの会話はテストのつもりでしたか。
「重ね重ね悪かった。あんたは敵に回すべきではないようだ。俗説と関係なくな。」
「いえ」
「この世には全部白と黒で分けなきゃ気がすまない連中がいる。
糞喰らえだと『俺も』思うが、それに従ってしまうのもまた現実さ。
できるなら俺もあんたみたいに煩わしい町を出て自由に暮らしたいものだ」
私は何故か、勝手に共感を持っているこの男が気に入りました。
「ゴーガン、いい加減にして」
「怖い怖い。これだけは信じてくれ。俺達は夫婦なんかじゃないぞ」
「もう一度云ってご覧なさい。二度目は許さないわよ」
「・・・フッ」
さてさて、にらみ合ったふたりには恐縮ですが、私もこのまま帰るわけには参りません。これでも元ですが海賊な訳でして。そそくさと退散する振りをしてセイレーンたちの遺体から鍵を見つけると、戦利品を得る為に私は奥の部屋へと入りました。

ろくなモノがなく散々でしたが、ふと目に入ったのは一冊の本でした。
『好色アルゴニアンメイド』
な、なるほど・・・槍を磨くとはそういう事でしたか・・・
「・・・何してる」
「い、いえ」
急に声をかけられて、私は慌てて本当に退散しました。なので、その本をつい懐に入れてしまったのは事故です。ほ、本当です。変な目で見ないでください。
というわけでキャプテン。やはり人魚なる存在は伝説の中にあってこそ価値があるようです。目の前に現れたとしたら、多分それはろくでもない事の前触れなのでしょう。ですから、もし人魚に遭う事があれば、こう云って追い返すのが得策のようです。
「海へ帰れ」と。
BOOK:好色アルゴニアンメイド(Lusty Argonian Maid)
本当にゲーム中にあるから困ります。日本語版の翻訳に期待。実はそんなに歴史ある書物ではなく、ゴーガンの感想はあくまで彼自身の解釈。実際に戦争をしているときには存在していなかったはずの書物で、前作Morrowindでは作者が登場し、しかも演劇にしたいので俳優を探してほしいなんてクエストがあったりします。なお、Lustyだと「好色な〜」ですが、Rustyだと「錆びた〜」になります。なので序盤でRusty Iron Quirassなんかを拾ってエロい鎧だと勘違いしないようにヽ(´▽`)